■
- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/11/24
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (47件) を見る
以前川上弘美のべつのエッセイを読んだとき(id:butterflyknife:20040225#p1)のように
読み終えるのにおそろしく時間かかった ひらいたり閉じたりして すこしずつ読んだ
きゅうにスパゲティーナポリタンがたべたくなって街をさまようところは小気味良かった
ない。スパナポ(疲れてきたので略す)の店が、由緒ある昭和ふうの喫茶店が、ない。できうればその店の前には小さなガラスケースがあって、その中にはコーヒー豆が皿の上にわざと散らばっているコーヒーカップ&ソーサー、緑色のクリームソーダ、二段重ねのホットケーキの見本、そしてとどめに空中に浮いたフォークで銀色の皿に盛られたスパナポのスパゲティーの三筋ほどをすくい取っているもの、それら少しほこりっぽい食品見本が並んでいてほしい。店に入れば、銀の盆を持ったおばあさんが、氷の入ってない水をコップに入れて持ってきてほしい。メニューには外のガラスケースにあるものの他にコーヒーゼリーとココアロールもあってほしい・・・・・・。
― 『ナポリタンよいずこ』
むかし暮らしたことのある明石を十年ぶりにたずねるところが良くて幾度も読み返した
歩きまわって確かめているうちに、ぽかんとした気分になってきた。自分のいる場所や時代がふたしかになってくる。ふだん自分の位置を常に確認しているわけではない。確認しなければ、それが確固としたものなのかふたしかなものなのか、わからない。だからふだんはぽかんとはしない。何も考えず、ただ生きている。こうして確かめはじめると、とたんにぽかんとする。
― 『明石ふたたび』
共感をおぼえるところもあった
自分はよほど食べ物にかんしていじきたない人間なのだろうと、いつも思っている。妙なものに(自分では決して妙とは思っていないのだが)執着を示し、いったん執着したとなると、そればかりを食べる。以前には、知人のおばあさんが漬けたというたくわんにすっかり執着してしまい、数日間たくわんとご飯だけを食べつづけた。中学生くらいのときに、イカの黒づくりに魅入られてしまい、毎食黒づくりだけを食べつづけた。干しあんずにとり憑かれたときには、からだがなんとなくあまずっぱい匂いになるまで、ひたすらにそればかり食べつづけた。
― 『生牡蠣とキノコ』
表題の 『ゆっくりさよならをとなえる』 は いちばんさいごに収録されている
冬の夜にすることが つぎつぎに列挙されている文章
冬の夜には じつにたくさんすることがあるのだった