角田光代さんの短編と左内正史さんの写真が見事に融合している
おふたりで毎月東京のまちをあるいてつくられた本
左内正史さんの写真には空気が映っていて
いちまいいちまい見蕩れてしまうくらい素敵なのだった
『おだやかな楽園』 というおはなしのさいごの4行は幾度か読み返した
『光の柱に』 というみじかいおはなしはこころに沁みた
『見なかった記憶』 というおはなしの一節がよかった

 見たものより見なかったもの。会えた人より会えなかった人。口に出せたことより出せなかったこと。食べたものより、食べることのかなわなかったもの。関係をもった人よりもたなかった人。いった場所よりいくのを断念した場所。手に入れたものより、どうしても手に入らなかったもの。それらは空白としてではなく、ある確固とした記憶として私のなかにある。
― 『見なかった記憶』