トリップ

トリップ

連作短編集
10のおはなしはそれぞれちがうひとが主人公なのだったが
あちらのおはなしに登場したひとがこちらのおはなしにもちらり出てきたりして
つながってるかんじが愉しかった
『秋のひまわり』は12歳のいじめられっ子のおとこのこが主人公
自分のことはさておき母親を思いやる健気さがよかった
さいごのページの台詞あたりで不覚にも涙ぐんだ
『トリップ』というおはなしのなかの数行は幾度か読み返した

 どうして結婚したのかと、どうして家庭をつくろうと思ったのかと、ときおり疑問に思うことがある。それは後悔ではなく、純粋な疑問だ。きっと今と逆のことをしていても、同じ疑問を抱いたと思う。どうして結婚しないのか、どうして家庭をつくろうとしないのか。つまるところ、あたしは高校生だったあのときと同じことを考えている。いったいあたしに選択権なんてものがあるのだろうか。何かを選んだつもりで、結局何ひとつ選んではいないのではないか。選択権も可能性も持たず、ただただ、待つためにここにいるのではないか。
 待つ。何を?
― 『トリップ』