しかたのない水

しかたのない水

連作短編集
6つのおはなしはそれぞれちがうひとが主人公なのだったが
どのひともおなじフィットネスクラブに通っていたり働いていたりして
あちらのおはなしに登場したひとがこちらのおはなしにもちらり出てきたり
人物や出来事が交錯しているかんじが愉しかった
短編集なのだが ながいながいひとつのおはなしのようでもあるのだった
井上荒野さんのおはなしはいくつか読んでみたが
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文章が上手だし展開が小気味良いし結末で意表を衝かれたりするし
こころのなかで 『うわ〜やられた〜』 とさけぶようなかんじが味わえるので
読むたびに 井上荒野さんはやっぱり巧いなあ というような感想を持ってしまう
サモワールの薔薇とオニオングラタン』 が なかなかおもしろかった
35さいの人生経験も男性経験も乏しいおんなのひとが主人公で
まわりから取り残されている感にちょっと共感した

 同じように日々を重ね、歳を重ねているようでも、人間には、生きていく人と、死んでいく人がいるのだと思う。おとうさんや藍子さんは生きていく人たち。藍子さんと同い年でも、私は、おかあさん同様、毎日少しずつ死んでいく人間なのだろう。
― P143 『サモワールの薔薇とオニオングラタン』